座右の短歌
短歌
座右の銘にしている短歌がある。
「一樹はや雪にけぶりてぼうと立つぼうと命をこもらせて立つ」 加藤克巳
最初は自分の名前が入っていて、特別な出会いのように感じて好きになった。しかし読めば読むほど、この短歌が表現する世界に惹かれていった。樹から感じる生命力や悠久の時を、新緑の鮮やかさや幹の太さ、ごつごつとした触り心地ではなく、雪と組み合わせ、遠近感の狂う真っ白な空間で表現する。しんしんと雪が降り積もる中、樹は頑張るわけでも、凍えるわけでもなく、ただそこに「ぼうと」立っている。降り積もる雪の音すらも聞こえそうな静けさの中、真っ白な空間に立つ樹は、ただ雪に降られ続ける。その姿には、夏に感じる命とは別の、ただ「ぼうと」こもる命を感じるのである。
ひたすらに成長を続けるのがこの社会であり、毎日は忙しないけれど、この歌を思い出すことで、ただ立って生きることの美しさを再確認できるのである。