草刈り機が怖い

怖いもの

草刈り機が怖い。あの細長い棒の先に回転刃がついているタイプのものだ。あれを使って草刈りをしているところに公園やキャンパスで遭遇すると、少し身構えてしまう。なるべく歩道の端に移動して、足早に通り過ぎようとする。

何が怖いかといえば単純で、あの刃が飛んでくるのが怖い。足の高さでぶんぶん振り回されて草を刈っている刃が、何かのはずみで外れてこちらへ飛んでこないかとびくびくしている。飛んできた刃がそのままざくーと足を切ってしまうのではないか、地面のコンクリートに当たって跳ね、顔をかすめるのではないかと想像が膨らみ、ますます早足になる。

この感覚は、スカイツリーなど高い建物にある、ガラス張りの床の上に立つときのものに近い。多くの人間が落下を生理的に避けるように、飛んでくる刃にも人は根源的な恐怖を感じ、避けてしまうのかもしれない。まあ他に草刈り機が怖い人に会ったことはないのだけれど。

ある国では成人の儀式として、足にツタを巻き付け高いところから落下するらしい。生理的に感じる恐怖に打ち克つことで、大人に近づくと考えられているのかもしれない。いつか私も草刈り機の傍を堂々と通り過ぎる儀式を乗り越え、ちゃんと大人にならなければならない。